連載企画第2回:日本の製造業が直面する調達の壁

Contents

1.国内調達コストの高騰

日本の製造業における調達活動は、かつては「品質の高さ」と「納期の正確さ」で世界的に評価されてきました。しかし近年、その優位性を揺るがす深刻な課題が浮き彫りになっています。最大の要因のひとつが、国内調達コストの高騰です。

人件費・原材料費の上昇

まず挙げられるのは人件費の高騰です。日本国内では少子高齢化が進み、製造現場の人材不足は深刻化しています。技能を持った人材を確保するためには、賃金水準を引き上げざるを得ず、その負担は製品価格に直結します。さらに、原材料価格の上昇も追い打ちをかけています。金属や樹脂といった基礎素材の価格は国際的な需要増に左右されやすく、国内での安定調達は年々難しくなっています。

エネルギーコストの負担

加えて見逃せないのがエネルギーコストの増加です。円安や国際情勢によって燃料価格が不安定化し、製造業の光熱費や輸送費を押し上げています。特に中小規模の製造業にとって、エネルギーコストの上昇は固定費を直撃し、利益率を圧迫する大きな要因となっています。

調達先の選択肢の限界

さらに、国内での調達は「選択肢の少なさ」という別の制約も抱えています。特定分野の部品や精密加工では、国内メーカーが限られており、需要が集中することで価格交渉力が低下してしまうのです。その結果、コスト削減の余地は小さくなり、企業は「高品質だが高コスト」というジレンマを抱えることになります。

経営への影響

こうした調達コストの高騰は、最終的に企業の競争力を削ぐ結果につながります。販売価格に転嫁すれば市場での競争力を失い、自社で吸収すれば利益率が低下する。いずれにしても経営を圧迫する構造が続くのです。特に売上規模が100億円程度までの中堅・中小製造業では、少しのコスト変動が経営基盤を揺るがすリスクとなります。

2.中国依存リスク

日本の製造業にとって、中国はこれまで「世界の工場」として大きな役割を果たしてきました。コスト競争力、圧倒的な生産量、豊富なサプライヤー群。こうした条件から、部品や材料の多くを中国に依存してきたのは自然な流れとも言えるでしょう。しかし近年、この「中国依存」がリスクとして顕在化し始めています。

第一に、地政学リスクの高まりです。米中対立や台湾海峡をめぐる緊張は、サプライチェーンに直接影響を及ぼす可能性があります。輸出規制や関税措置が突如として発動されれば、製造に不可欠な部品の調達が滞るリスクは避けられません。特に半導体や電子部品といった戦略物資は、政治的要因で供給が制限されるリスクを常に抱えています。

第二に、コスト優位性の低下です。かつては「安い中国」というイメージがありましたが、人件費の上昇や環境規制の強化、さらには為替の影響により、調達コストは年々上昇しています。加えて物流費の高騰や港湾の混雑といった問題も重なり、「中国一極集中はむしろ高コスト化を招く」という逆説的な状況も起きています。

第三に、サプライチェーンの不透明性です。中国の広大な生産ネットワークは一見すると効率的ですが、その実態は複雑で、部品のトレーサビリティや品質保証の面で不安を抱える企業も少なくありません。昨今のESG経営やコンプライアンス重視の流れにおいて、調達先の透明性はますます重要になっています。

こうした背景から、日本の製造業は「中国依存からの脱却」という大きな課題に直面しています。もちろん中国市場やサプライヤーの重要性がすぐに失われるわけではありません。しかし、リスク分散の視点を持たなければ、突然の供給停止やコスト増加に対応できないのも事実です。

その代替先として注目されているのが台湾です。台湾は精密加工や電子部品分野において高い技術力を誇り、しかも日系企業とのビジネス文化的な親和性も高い。政治的にも民主主義国家として透明性があり、知財保護や契約遵守の点でも信頼がおけます。中国依存リスクを軽減するために、台湾との新たなパートナーシップを模索する動きはますます加速していくでしょう。

 

3.中堅規模(売上100億円規模)の企業が取り得る選択肢

日本の製造業は、グローバル競争の激化とともに「調達の壁」に直面しています。特に売上規模100億円前後の中堅企業は、大手のように資金力や交渉力で優位に立てず、中小企業ほどの柔軟さも持ちにくい「板挟みの立場」にあります。このクラスの企業が、どのように調達戦略を見直し、持続的な成長につなげていけるのか。本稿では、その具体的な選択肢を考えていきます。

3-1. 国内調達依存からの部分的シフト

多くの中堅メーカーは「品質の安心感」から国内調達に依存してきました。しかし、近年の人件費高騰、物流コスト増、円安による原材料価格の上昇が重なり、調達コストは過去にない水準に達しています。全量を海外に切り替えるのはリスクが大きいものの、部分的に台湾やASEAN諸国へシフトすることで、コストとリスクのバランスを取る戦略が現実的です。

3-2. 中国一極依存からの分散調達

「安価で大量供給」という強みから、中国に調達を依存してきた企業も多いでしょう。しかし、地政学的リスクや米中摩擦の長期化により、安定供給が揺らいでいます。中堅企業にとっては、一度のサプライチェーン寸断が経営に直結するため、「第二の調達先」を確保することは急務です。台湾、ベトナム、インドなど、技術力と供給安定性を兼ね備えた国への分散調達は、リスクヘッジの観点からも検討すべき選択肢です。

3-3. ODM活用による開発負担の軽減

売上100億円規模の企業は、自社で研究開発や設計リソースを十分に確保できないケースが多く見られます。その際に有効なのが、台湾メーカーが得意とするODM(Original Design Manufacturing)の活用です。ODMを通じて設計から試作、量産まで委託することで、開発期間の短縮やコスト圧縮が可能になります。特に電子部品や精密加工分野に強い台湾企業は、日本品質に対応できる実績を積んでおり、共創型のパートナーとして有力です。

3-4. 中堅企業だからこそ可能な「選択と集中」

大手企業はグローバルに幅広く調達網を持ちますが、中堅企業はリソースが限られる分、調達先やパートナーを厳選しやすいという利点があります。取引量が大企業ほど膨大でないため、現地の有力メーカーと「戦略的に深く付き合う」ことが可能です。この柔軟性を活かし、単なる価格交渉相手ではなく、技術開発を共に進めるパートナーとして関係を築くことが、持続的な競争力を高めるポイントとなります。

まとめ

売上100億円規模の中堅製造業にとって、調達戦略は企業の存続を左右する重要なテーマです。

  • 国内依存の見直し
  • 中国一極集中からの脱却
  • ODMの積極活用
  • 戦略的パートナーシップの構築

これらを組み合わせることで、コスト・品質・リスクをバランス良く最適化し、次の成長ステージに進むことが可能となります。いまこそ、中堅企業だからこそ選べる調達戦略を見直すタイミングに来ているのです。


連載企画「台湾×電子部品で未来をつくる」

第1回:なぜ今、台湾の電子部品が世界から注目されるのか

第2回:日本の製造業が直面する調達の壁

第3回:ODM共同開発の可能性

第4回:現地文化と商習慣の攻略法

5回:100億企業が台湾をパートナーにするロードマップ

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